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新型コロナウイルス感染の後遺症としての抜け毛について解説

2024/05/28
監修:三上 修

 

新型コロナウイルスは感染後も数ヶ月以上持続する症状を引き起こし、後遺症(罹患後症状)と呼ばれています。後遺症の症状は多彩で、息切れ、咳・痰など呼吸器症状、胸の痛みや動悸などの循環器症状、頭痛、集中力低下、睡眠障害などの神経症状が挙げられます。特に約20%と比較的高い頻度で抜け毛の症状を起こすことが知られています。

この記事では新型コロナ後遺症としての抜け毛症状について、原因や対応法、他の脱毛症との違いなどを詳しく解説していきます。

コロナウイルス感染の後遺症について

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は発熱や咳などの呼吸器症状を引き起こしますが、ほとんどの場合、数日から数週間の時間経過とともに症状が改善します。しかし、一部の方で何ヶ月経っても症状が持続したり、新しい症状が出てきたり、症状が消失した後に再び生じたりすることがあります。これを新型コロナウイルス感染症の後遺症(罹患後症状)と呼びます。

新型コロナウイルス感染症の後遺症が起こる原因についてはまだ不明な点も多いですが、以下のような複数の原因が絡み合っていると考えられています。

  • ウイルス感染により肺などの組織が直接的にダメージを受けること
  • 微量なウイルスが持続的に感染すること
  • ウイルス感染後に免疫の調節機能が乱れて炎症が起こること
  • ウイルスにより血液が固まりやすくなり血栓症が起きやすくなること など

また、さまざまな臓器で多種多様な症状を引き起こすことが知られています。

【頻度が多いもの】

  • 倦怠感や呼吸困難
  • 咳・痰などの呼吸器症状
  • 動悸や胸の痛みなどの循環器症状
  • 頭痛、集中力低下、記憶障害、睡眠障害などの神経症状
  • 味覚・嗅覚障害、脱毛・皮疹などの皮膚症状
  • 関節痛や筋肉痛などの痛み症状

これらの症状が新型コロナウイルス感染後も2〜3ヶ月以上持続し、さらに詳しい診察や検査の結果、その他の疾患による症状ではないと考えられた場合に後遺症と判断されます。

抜け毛の症状:頻度や出現時期

日本国内での調査によると(Miyazatoら, Open Forum Infectious Diseases,  2020)、新型コロナウイルス感染の後遺症としての抜け毛症状は感染者58名のうち14人の24%に認めており、比較的頻度の高い症状と考えられています。さらに、同じ調査では新型コロナウイルス感染の症状が現れてから平均58.6日(約2ヶ月)で抜け毛の症状が出現し、症状の回復までにはさらに平均76.4日(約2〜3ヶ月)かかったということがわかっています。

海外の報告でも、新型コロナウイルス感染の発症から3〜7ヶ月後に症状が出ることが多いようです(Mieczkowskaら, Int J Dermatol. 2021)。

後遺症としての抜け毛症状は、新型コロナウイルス感染の重症度とは関係がなく、軽症でも起こる可能性があるので注意が必要です。
ただし、東京都の後遺症対策チームにおいて、「コロナ後遺症相談窓口」相談データをもとに、新型コロナウイルスの中でもオミクロン株と見込まれる感染者の後遺症について分析したデータによると、脱毛を認める割合は0.8%のみであり、デルタ株の頃(9.4%)と比較すると大きく減少していることがわかっています。

抜け毛のタイプ

一般的に抜け毛を起こす原因は、大きく以下の2つが考えられています。新型コロナウイルス感染の後遺症としての抜け毛は、2つ目に説明する毛の生え変わり周期が乱れることが原因で生じます。脱毛症のタイプによって、その後の治療や対応が異なってくるため、詳細な問診や診察で正確に診断を行うことが重要です。

免疫細胞による自己免疫反応

髪の毛をはじめとする体中の毛は、皮膚の中に埋め込まれた小さな筒状の構造物である「毛包(もうほう)」で作られます。毛包の根元には、「毛母細胞(もうぼさいぼう)」と呼ばれる毛のもとになる細胞があり、細胞分裂を繰り返して増えることで毛が伸びていきます。

以前は、円形脱毛症はストレスが原因といわれてきましたが、最近の研究によって自分自身の免疫細胞が自分の「毛包」を誤って外敵と認識して壊してしまうことが原因で(自己免疫反応)、毛が抜けていくことがわかっています。

抗がん剤などの薬剤で起こる抜け毛は、薬剤が毛を作る細胞の活動を抑えてしまうことで、毛が減っていきます。

毛の生え変わり周期が乱れる

髪の毛は「毛包」で作られますが、活発に毛を作り続けることができる「成長期」は約2〜6年で、その後毛が細くなり脱毛の準備をする「退行期」(約2週間)、脱毛して成長期に入る準備をする「休止期」を経て(約3ヶ月)、再び「成長期」に戻り、再び毛を作り出します。この「成長期→退行期→休止期→成長期」を繰り返すサイクルを「毛周期(ヘアサイクル)」と呼びます。「毛周期」に従って、毛は数年のサイクルで生え変わっており、通常でも1日100本程度の毛が抜けているといわれています。

AGA(AndroGenetic Alopecia)としてよく知られている男性型脱毛症では、男性ホルモンのバランスが崩れ、毛を活発に作る「成長期」が短くなってしまうため、毛が十分に成長することができず短く細い毛に変化してしまうことで薄毛が生じます。

女性型脱毛症では、女性ホルモンのバランスの乱れ、鉄の欠乏、出産や急激なダイエットのストレスによって、毛が生え変わるサイクルが乱れて薄毛になります。

新型コロナウイルス感染の後遺症としての抜け毛は、感染による身体的・精神的なストレスで毛を活発に作る「成長期」が急に止まり、一斉に「休止期」に入ることで毛が抜けてしまう「休止期脱毛症」が大きな原因と考えられています。
実際に、新型コロナウイルス感染に関連したさまざまな脱毛症患者1,826名(平均年齢54.5歳、男性54.3%)を対象としたシステマティック・レビューでは、最も一般的な脱毛症のタイプは、AGA(30.7%、男性86.4%)、休止期脱毛症(19.8%、男性19.3%)、円形脱毛症(7.8%、男性40.0%)でしたが、このうち休止期脱毛症は93.6%の症例で新型コロナウイルス感染を契機に新しく発症していました。それに対してAGAはすべて新型コロナウイルス感染前に発症していました。

また新型コロナウイルス感染症以外の手術後に、甲状腺機能障害などで見られる抜け毛症状もこの「休止期脱毛症」が原因と考えられています。

抜け毛への対処法

新型コロナウイルス感染後に抜け毛の症状を認めた場合、まず皮膚科を受診して抜け毛がどのタイプであるかを診断して、原因に対応した処置を行う必要があります。

男性型脱毛症(AGA)と診断された場合、毛の発育を活発にするミノキシジルの外用や、男性ホルモンのバランスを改善するフィナステリド(プロペシア)の内服を行い治療を行っていきます。

円形脱毛症と診断された場合、免疫機能を抑える副腎皮質ステロイドの局所注射や副腎皮質ステロイドの外用、紫外線療法などの治療を行います。

新型コロナウイルス感染の後遺症による「休止期脱毛症」と診断された場合、現時点では特別な治療法がないため、基本的には自然治癒を期待して経過観察を行います。多くの場合で、4〜5ヶ月で改善するといわれていますが、必要に応じて男性型脱毛症や女性型脱毛症で用いられるミノキシジルの外用や、女性型脱毛症にはビタミンB群やL-シスチン、D-パントテン酸カルシウムなどの発毛を促す成分を含んだパントガールの内服を行うこともあります。最近、コロナ後遺症外来で漢方薬による治療を行う施設も増えてきており、脱毛に関する有効性も報告されてきています。

まとめ

新型コロナウイルス感染に伴う後遺症はさまざまな症状を引き起こしますが、そのなかでも抜け毛は約20%と比較的頻度の高い症状です。新型コロナウイルス感染症の身体的・精神的ストレスにより、毛の生え変わる周期が乱れることで起こる「休止期脱毛症」が大きな原因として考えられています。

現時点では特別な治療法はありませんが、漢方薬治療に期待が寄せられています。対応が異なる男性型脱毛症や円形脱毛症の可能性がないか判断する必要があるため、新型コロナウイルス感染後に抜け毛の症状を認めた場合は、皮膚科を受診して診察を受けましょう。

また、男性型脱毛症(AGA)はオンライン診療も可能です。自宅から気軽に相談でき、忙しくて対面診療に行けない方や、近所にAGAを診てくれる医療機関がない方も利用しやすくなっています。抜け毛にお悩みの方は、受診を検討なさってみてはいかがでしょうか。

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