AGAはどのくらい遺伝する?|“81%の遺伝率”と母方・父方の影響
「薄毛は遺伝しやすい」と耳にする場面は多く、家族に薄毛の人がいると自分にも影響があるのか気になる方もいるでしょう。男性型脱毛症(AGA)は遺伝の関与が大きく、研究では“遺伝率81%”という数値が示されています。ただし、この数字は「81%の人が薄毛になる」という意味ではありません。今回は“薄毛の遺伝”の仕組みを研究データから紐解き、AGA対策として取り入れやすいポイントを紹介します。
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AGAはどれくらい遺伝する?|“遺伝率81%”が示すこと

男性型脱毛症(AGA)は遺伝の関与が大きい疾患とされています。ここでは、AGAにおける遺伝の影響について説明します。
遺伝の影響を示す指標“遺伝率”とは?
遺伝の影響を説明する方法はいくつかありますが、科学的には“遺伝率”という指標を使います。“遺伝率”とは、あるグループにおいて遺伝が身体的特徴や性質にどの程度影響するかを示す割合です。遺伝率が100%なら、特性が遺伝のみで決まる状態を指し、0%なら遺伝との関連はないという意味になります。
ここで注意したいのは、「遺伝率81%」という数値は、個人の発症確率を表すものではないということです。「薄毛の原因の81%が遺伝」という意味でも、「薄毛の親を持つ子どもの81%が薄毛になる」という意味でもありません。個人レベルで考えた場合、遺伝と生活習慣、環境要因が組み合わさってAGAの発症に至る点を踏まえる必要があります。
双子研究で示されたAGAの“81%”という遺伝率
遺伝率の評価にはいくつか方法がありますが、その中でも双子を対象とした「双子研究」は信頼性の高い手法として広く用いられています。双子研究は、同じ遺伝子を持つ一卵性双生児と、約半分ほど同じ遺伝子を持つ二卵性双生児の差を調べることにより、遺伝の影響(遺伝率)がどのくらいなのかを調べる方法です。
この方法で行われたAGAの遺伝率の研究報告を見てみましょう。25〜36歳の一卵性双生児476組と二卵性双生児408組を対象に行ったオーストラリアの研究では、AGAの遺伝率は81%(95%CI:77〜85%)でした。また、部位別では頭頂部の遺伝率が89%(95%CI:75〜95%)、前頭部の遺伝率が96%(95%CI:87〜99%)でした。これらの結果から、AGAの進行は遺伝の影響を強く受けていると考えられます。
95%CI(95%信頼区間)とは?
調査で得られた数値が、どの範囲に収まりやすいかを示す目安です。例えば「89%(95%CI:75〜95%)」なら、「実際の値は75〜95%の間に入る可能性が高い」という意味になります。
中年期以降の薄毛も遺伝が関わる?
年齢を重ねるほど生活習慣や環境の影響が大きくなることから、遺伝率は年齢に従って低下するのが一般的です。しかし、薄毛に関しては、高齢者の双子を対象にした研究でも遺伝の関与が大きいという報告があります。
70歳以上の739名(双生児148組)を対象に行ったデンマークの研究では、AGAの遺伝率は79%(95%CI:40~85%)でした。先ほどの25〜36歳の研究結果である81%と比べても、遺伝率にそれほど違いはありません。この研究からも、AGAは遺伝の影響が大きいことがわかります。
AGAに関わる遺伝子と母方の影響

AGAは遺伝の影響が強い疾患ですが、AGAの進行にはどのような遺伝子が深く関わっているのでしょうか。
代表的な遺伝子として、X染色体(性別を決定する遺伝子を持つ染色体)にあるアンドロゲン受容体遺伝子と常染色体(体の様々な特徴を決定する遺伝子を持つ染色体)にある20p11が知られています。
X染色体は、性別を決定する遺伝子であり、男性の場合、母親からのみ引き継がれます。この特徴から、アンドロゲン受容体遺伝子の影響は母方の家系と関連しやすいと考えられています。つまり、母方の祖父がAGAの場合は、AGAを発症する可能性があるという仕組みです。
さらに、ヨーロッパ系民族12,806名を対象とした遺伝子解析の結果では、他にも6つの染色体領域がAGAに関係する遺伝子を持つことが明らかになりました。AGAのように、複数の遺伝子に加えて生活習慣、環境によって進行する疾患は“多因子疾患”と呼ばれます。関係する遺伝子や生活習慣、環境が多ければ多いほど発症しやすくなります。
イメージとしては、コップの中に水(遺伝子や生活習慣、環境)が少しずつ溜まり、水があふれ出た段階でAGAとして表面化する、という流れです。また、AGAに関係する遺伝子を多く持つグループは、最も少ないグループと比べてAGAを発症しやすい傾向があり、研究では約6倍の差が示されています。
AGA予防には生活習慣や環境も大切!

AGAは遺伝の影響が大きい一方で、前述のように生活習慣や環境も発症に関わります。毎日の習慣が少しずつ頭皮への負担として積み重なることもあるため、まずは生活リズムや普段のケアに目を向けておきましょう。
具体的には、次のような髪をいたわる生活を意識しましょう。
- 髪に負担がかかるカラーや髪型を避ける
- 自分の髪質に合ったシャンプー・コンディショナーを使う
- 髪の新陳代謝に必要なビタミン・ミネラルを摂取できるよう、バランスのよい食生活を意識する
- 無理をせず休息をとる
- 規則正しい生活を心がける
既に薄毛が気になるようであれば、生活習慣の見直しと共にAGA治療薬を試してみるのもおすすめです。
効果が確認されているAGA治療薬には、フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルなどがあります。一部は医師の処方が必要なため、AGA治療を行っている医療機関で相談すると状況に合った選択がしやすくなります。
AGA治療薬の詳細については、こちらの記事もご覧ください。
AGA治療薬の種類と効果! 薄毛改善と発毛に効く薬の選び方指南
忙しくて受診する時間がない場合は、オンライン診療で相談する方法もあります。
AGA遺伝子検査はした方がいい?

先ほど紹介したAGAに深く関わっている遺伝子の一部は、遺伝子検査で確かめられます。AGAの遺伝子検査は、遺伝子検査を実施しているクリニックや、市販の遺伝子診断キットを使って行えます。
結果の扱いは慎重に進める必要があります。数値や判定の意味合いを自己判断するのは難しいため、検査後は医療機関で相談すると、自分の状況に合わせた説明を受けやすくなります。
遺伝子検査については、こちらの記事に詳しくまとめています。
この薄毛はAGA? 遺伝子検査で分かること、検査後にすべきこと
AGAと遺伝に関する質問

AGAと遺伝に関して、よくある質問をまとめました。本文と重なる部分もありますが、気になる点を振り返りやすいよう順番に整理します。
Q.AGAが遺伝する確率は何割?
A.家族(父や祖父など)からAGAが遺伝する確率について、具体的な数値を報告している研究論文は、現時点でありません。AGAに遺伝が影響する確率(遺伝率)は約80%ですが、これは家族から遺伝する確率ではありません。個人の発症確率を示す数字ではない点に注意が必要です。
Q.母方と父方、AGAはどちらから遺伝する?
A.AGAの発症には複数の遺伝子が関わるため、母方と父方のどちらから遺伝するかは一概に言えません。
ただし、AGAとの関わりが大きいとされるアンドロゲン受容体遺伝子は母親から受け継ぐX染色体上にあることから、母方の祖父がAGAであれば、AGAを発症する可能性はあります。一方で常染色体(20p11)にも独立したAGAリスク遺伝子が知られているため、母方だけを気にすればよいというわけではありません。
Q.将来はげる人の特徴は?
A.見た目や生活習慣といった特徴だけで、将来のAGAを予測することは難しいのが実情です。
AGAは複数の遺伝子や生活習慣、環境によって進行するため、一つの要素だけで決まるわけではありません。家族内でAGAの方が多い場合、関連する遺伝的要因を受け継いでいる可能性があり、結果として発症しやすくなると考えられています。
Q.AGAを発症すると、平均何歳ではげる?
A.日本人男性の場合、20歳代後半から30歳代にかけて薄毛になる人が多く、40歳代くらいがだいたいピークになることが多いとされています。
Q.男性は何割くらいAGAを発症する?
A.日本人男性の約30%がAGAだと考えられています。年代が上がるにつれて該当する割合が増える傾向があります。
Q.AGAはどんな治療が効果的?
A.フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルが代表的な治療薬として知られています。治療を検討する際は、医療機関で相談すると、自分に合った進め方を検討しやすくなります。
AGAは遺伝だけで決まらない|今後の向き合い方

AGAは年齢に関係なく、遺伝率が約80%と遺伝の影響が大きい疾患と考えられています。ただし、遺伝があるからといって、必ず薄毛になるわけではありません。生活習慣や頭皮環境の積み重ねで進行の仕方が変わる場合があり、早めに向き合うほど現状を保ちやすくなります。
フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルといった、AGAへの効果が確認されている治療薬もあります。家族に薄毛の人がいて心配な場合は、医療機関で相談すると、自分に合った向き合い方を見つけやすくなります。通院が難しい方は、オンライン診療で相談する方法もあります。自宅から落ち着いて話せるため、初めての相談でも取りかかりやすい選択肢となるでしょう。
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出典
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男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン作成委員会. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版, 日本皮膚科学会雑誌, 2017, 127 巻, 13 号, p. 2763-2777
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