漢方薬の種類と漢方医学の特徴
漢方薬は市販で手に取りやすく、馴染みがある方も多いのではないでしょうか。
ただ、漢方の種類は多く、自分に合っているものが分からないなどのお悩みもあると思います。
数多くの漢方薬から自分に合ったものを見つけるには、漢方医学を理解する必要があります。
今回は、漢方薬とは何か、その種類について、解説していきます。記事を読んでいただくと漢方医学の考え方が少しわかっていただけるのではないでしょうか。
漢方とは?
漢方の起源は中国伝統医学で、紀元前1000〜700年くらいからの深い歴史があり、漢方薬は天然の動植物や鉱物を薬物として利用したことに始まります。※1
日本には飛鳥時代に中国から伝来しました。室町時代からは本格的に漢方医学という日本独自の臨床医学として発展してきました。漢方は、人とそれを取り巻く環境を丸ごと一つと見なして、身体の『歪み』や『偏り』を治していくという考え方に基づいています。
治療で用いる漢方薬は、自然界に存在するものから抽出され、患者さんの体力や気力、身体の状態に合わせて処方されます。漢方薬の素となる生薬(しょうやく)は、さまざまな薬効成分を含む植物や動物、鉱物などの天然成分から抽出されます。
生薬は、世界各地でいわゆる民間療法として歴史的に使用されてきました。長い歴史の中で、生薬を1種類だけで使うのではなく、組み合わせることで相乗効果がでることが科学的にもわかっています。※2
複数の生薬を組み合わせたものを漢方薬といいます。生薬の組み合わせによって、配合された生薬がお互いの効果を増幅したり逆の効果を示したり、非常に複雑に影響しあって多彩な薬理効果が出るのです。
漢方医学の診断
漢方の考え方の根幹をなす陰陽論、五行論、臓象学説、気血津液論を簡単に紹介しましょう。
陰陽論は、世界を動的で発散的な「陽」、静的で収斂性のものを「陰」と考えます。具体的には熱、乾燥、興奮、辛いものは『陽』、寒い、湿っている、苦いは『陰』といった感じです。陰と陽はお互いにめぐり、相互作用があるとされており、バランスの取れた状態を目指します。どちらが良いという考えではなく、あくまで両方のバランスが取れた状態が望ましいとされています。病気などで陽と陰の状態が崩れることを陰陽失調といい、身体の病的状態を表すのに使われます。陽と陰の要素が不足しているものを虚証(きょしょう)、身体に害をもたらす病的状態がある実証(じっしょう)、虚証と実証が混ざりあった虚実挟雑、陽も陰も絶対的に不足した陰陽両虚の4つに分類します。どの状態にあるのかで、効果のある漢方薬が異なります。
五行論は、木(もく)・火(ひ)・土(ど)・金(きん)・水(すい)の要素を使って、ものの性質や相互関係を説明する方法です。肝、胆は木、心と小腸が火、脾と胃が土、肺と大腸が金に属しており、それぞれが促進、抑制、相乗などの効果をしあって身体のバランスを取っています。
身体の五臓六腑(肝、心、脾、肺、腎、胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦)の働きを説明したものを臓象学説といいます。必ずしも西洋医学の肝臓と肝が対応せず、解剖学的にいうと三焦という臓器はありません。あくまで臓器というよりも『肝臓的な役割』のことを示し、漢方医学でいう肝は栄養素の代謝と解毒、血液の貯蔵と栄養供給、筋肉の運動やバランスの制御などの働きを担っているという考え方になります。
陰陽論、五行論で身体の状態を表現したら、漢方薬などで治療するために、具体的にどこの部分を補正すればよいのかを表すのが、臓象学説と気血津液論になります。気血津液論では気(き)・血(けつ)・津液が充実してめぐることで五臓が機能して心身が健康になっている状態を示すものです。
漢方医学の独特な手法で今の身体の状態を示すことで、過剰・不足している要素を漢方薬で治していこうというのが漢方医学の根幹の考え方になります。
また、インフルエンザに感染した場合を例に、診断方法の違いを説明します。
西洋医学ではインフルエンザはワクチンによる予防と発熱時の解熱剤、発症早期の抗ウイルス薬が中心になります。
一方、漢方医学の考えからすると、インフルエンザの“悪寒、発熱、頭痛、腰痛があって発汗がない”という症状は、陰陽失調のうち、実証にあたり、麻黄湯の証や葛根湯の証となります。逆に同じインフルエンザ感染であっても、“胃腸が弱く高熱はないが汗が出ている”などの虚証にある場合は、麻黄附子細辛湯の証となります。
西洋医学のように病名から治療薬が選択されるのではなく、あくまで個人の身体の状態を漢方医学的なアプローチで表現し、それにあった漢方薬を選択してきます。
漢方薬の4つの種類
漢方薬は剤形によっては次のように種類を分けることができます。
- 湯剤:土瓶などに生薬と水を入れて加熱することで、生薬の成分を抽出する煎じ薬
例)葛根湯、小柴胡湯などの「〇〇湯」という名前の漢方薬 - 散剤:生薬を粉末状にして混ぜたもの
- 丸剤:生薬を粉末にしたものに蜂蜜、蜜蝋などを加えて丸く固めたもの
- エキス剤:湯剤、散剤、丸剤として服用されていたものからエキスを抽出して加工したもの
漢方薬の名前の考え方
漢方薬は、基本的に生薬の組み合わせですので、名前の付け方が少し複雑です。
例えば配合されている生薬の名前に由来するものとして、葛根湯、麻黄湯があります。葛根湯は名前の由来のカッコンとタイソウ、マオウ、カンゾウ、ケイヒ、シャクヤク、ショウキョウが含まれています。麻黄湯はマオウと、キョウニン、ケイヒ、カンゾウが含まれます。
漢方薬の名前が、薬の効果を表しているものもあります。補中益気湯はオウギ、ソウジュツなど10個の生薬を含む漢方薬ですが、名前の通り『お腹(中)を補い元気を益す効果が期待できる薬』です。半夏瀉心湯は半夏(ハンゲ)という生薬が配合され、心(みぞおち)の詰まったものを取り除く、または、心のモヤモヤを取り去る(瀉する)効果がある漢方薬で、配合する生薬の名前と効果の両方が名前に記されています。
このように、漢方薬の名前は非常に複雑です。漢方薬は生薬の組み合わせが無限にあることから、種類も非常に豊富です。市販薬として薬局で購入可能なものが294種類、医薬品として病院で処方可能なものは148種類あります3)。
まとめ
今回は漢方医学の考え方と漢方薬の大まかな種類について解説しました。漢方医学は少し独特な考え方が必要ですが、西洋医学では治療が難しい冷え性やコリなどの『未病』の状態にアプローチできるのが魅力です。記事を読んで少しでも漢方に興味を持っていただければと思います。
参考文献
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